ふたたび,文豪loko-loko氏の小説をご紹介しんぜよう。
「いつ日本へまたくる?」と男は訊いた。
「まだわからない」とエリーは笑った。
バスに乗り込むエリーは男の手を握り、軽く頬にキスしただけだった。再会の約束もなかった。男は薄汚れたバスが黒い煙を吐きながら、タラベラへ向かってのろのろと動き出すのをしばらく見送っていた。エリーの姿を探してみたが、くもった窓ガラスのなかは何も見えなかった。
翌日、男はマニラを発った。
男を乗せた飛行機が北上する窓の下、雲のあいまあいまに、広い稲の原が見えた。その変化に乏しい景色のなかに点在する町々を目で追っていったが、あの冗長な旅の軌跡は一瞬のうちに視界から消えた。最後に、火山の噴火が拵えた巨大な灰色の扇状地が山々の間から海へ沈むのを認めた。それだけが痛々しくもその風景のなかの一個の豁然たる変化だった。
日本へ帰るとすぐ、男はエリーの友達カティのいる店を訪ねた。
はじめて見るカティーは目の大きい、優しそうな娘で、未だ垢抜けせぬ化粧の顔に、精一杯の笑顔をもって彼の前に登場した。男は早速エリーの友達だと告げ、エリーから「指名」を依頼されたと話した、それから、タラベラへの旅から帰ってきたばかりだということ、エリーとの出逢い、家族たちのこと、それから「なにもない」と言われたタラベラという地の断片的な印象、などなど。
男はそれを幾分戯けた調子で話して、半ばカティを笑わせるほどのつもりだったから、横ですすり泣きをはじめたカティに驚いた。他の女や客たちが気づいて、なにごとかとこちらをのぞいている。やがて先輩らしき女がきてカティをたしなめるのを制止し、彼はカティを胸に抱き、泣くのにまかせた。さらに激しく啜り上げるカティの泣き声と涙を自分の胸に押し込めながら、男はカティの髪の匂いを嗅いだ。
籾殻の煙の匂いはもう匂うわけはなく、かわりにたばこの煙の饐えた匂いがした。
おわり
初期バージョンはこれで終わりぢゃ。
∧_∧
(´・ω・`)
( つ旦O
その後の改訂版では、最後の文章が多少変えられておる。
男はそれを幾分戯けた調子で話して、半ばカティを笑わせるほどのつもりだったから、横ですすり泣きをはじめたカティに驚いた。他の女や客たちが気づいて、なにごとかとこちらをのぞいている。やがて先輩らしき女がきてカティをたしなめるのを制止し、彼はカティを胸に抱き、泣くのにまかせた。
「帰りたい、故郷へ帰りたい、家族に逢いたい」とカティは泣くのだった。
タラベラの曇った空、雨に打たれる稲穂の波、鬱然と霞む遠くの山々を男はまた思い出していた、そしてバスに乗って帰ったエリーの後姿を。さらに激しく啜り上げるカティの泣き声と涙を自分の胸に押し込めながら、男はカティの髪の匂いを嗅いだ。籾殻を焼く煙の匂いはもう匂うわけはなく、かわりにたばこの煙の饐えた匂いがした。
昔エリーと歌った歌の文句がふと浮かんだ。
Don't you draw the Queen of Diamond, boy.
She'll beat you if she's able.
You know the Queen of Heart is always your best bet・・・
∧_∧
(´・ω・`)
( つ旦O
いかがぢゃったろうか。
在りし日の、OCW全盛の頃が思い出されるの。
「なにもない」フィリッピンの田舎から、短期間ながら日本といふ異国へ働きに出る非日常性は、たとへ欺瞞といへども、ババエさんらにとって貴重な経験ぢゃったろう。
良きにつけ悪しきにつけ、一つの時代ぢゃったのぅ。
風景の描写がたいへんに美しく、また時間経過の表現が実に見事でな、まるで短い映画を見ているような文章ぢゃ。さすがはloko-loko氏ぢゃと、当時感服いたしたのを思い出すの。
茶爺さん
まらみんさらまっぽでした♪
待ってて良かったでふ(*´ω`)ムフ♪
きれいな風景描写おそれいりまつ(>_<)
茶爺さん!また埋もれた名作に明かりを充ててくださいm(__)m

タラベラへの道
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